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菌愛づる姫君 ~「もやしもん」考

漫画に関しては年々保守化しており、主に過去のビッグネームばかりを追っていましたが(買ってハズレるのは悔しい)。

軽妙にして辛辣、つれづれ漫画日記様のレビューで好奇心をくすぐられ読んでみたところ、ハマりましたよ「もやしもん」。Oryzea 今更ながら菌ブームです(嘘)。

常々擬人化萌えは邪道と考えておりますが、「もやしもん」の菌キャラクター化は可愛いし、まあいいんじゃないかと。菌類を区別して登場させるに他に手がなく、(キャラなら区別付くかというと否)第一、主人公にそう見えるんだから仕方がない。

 

さて「もやしもん」を語る上で欠かせない漫画が二つ。
一つは「動物のお医者さん」(白泉社・佐々木倫子著)、
もう一つは「風の谷のナウシカ」(徳間書店・宮崎駿著)。

Cyobi 前者は大学内幕物の嚆矢。
教授から学部生に至るまでの厳然たるヒエラルキー、符牒の如き専門用語、奇行にしか見えない慣習等々、知人の男子学生(博士課程)をして「このマンガの本当の面白さは理系の院生じゃないとわかりませんよ、うひひひ」と言わしめたほど、リアリティあふれる学生生活を活写。

後者はご存知同名アニメ映画の原作漫画。
蟲や海嘯といった難字のみならず、粘菌という言葉を世間一般に広めた功績は知の巨人南方熊楠以上。映画は変なエコロジーブームを巻き起こしたような気がするが、原作はSFファンタジー戦記(あるいは叙事詩)とでもいうべきか。

もやしもんと前者を比較すると、キャラクター設定に類似点が多い。
(「もやしもん」が「動物のお医者さん」を下敷きに描かれたという意味では全く無いので悪しからず)

主人公、沢木惣右衛門直保とその友人結城蛍は新入生
(ハムテルと二階堂に相当)
なのに妙にアクの強い樹慶蔵教授にもう囲い込まれている
(グローバルな破天荒ぶりが漆原教授に相当)
さらにそこの研究室ではドクターの長谷川遥が我が物顔
(菱沼さんに相当、ただし境遇と攻撃性は綾小路さんに近い
←「就職する気はありませんのよ家が裕福だからホーッホッホッ」の人)

教授と主人公達の出会いも、似ていると言えなくもない。

もやしもん:
入学式早々学内で行方不明者がいると聞いた沢木と結城は農学部への近道の途上、何かが埋まっているらしいのを発見。騒ぎの中不気味な老人が登場、アザラシの死体が掘り起こされる。

動物のお医者さん:
まだ高校生のハムテルと二階堂が地下鉄駅への近道であるH大構内解剖学教室脇を走り抜けると、般若の顔をした小動物に遭遇、さらにそれを捕獲しに不気味な扮装の老人が登場する。

どちらも死の臭いをぷんぷんさせたホラー仕立てなイントロである。

もやしもんでは、すわ死体遺棄かと思わせて実は実験なのだが、アザラシの死体の中の鳥の死体を音を立てて食す樹教授には猟奇的過ぎてドン引きする。インパクトとしては充分である。(キビヤックは勘弁。ホビロンなら食べます醗酵じゃないけど)

動物のお医者さんでは、解剖学教室から汚れた術着の女子学生が黒いゴミ袋を手に出て来るというやや間接的な表現が取られている。「俺前に見ちゃってさ なにか巨大な動物の腸を引きずった学生が」と二階堂のセリフで補足されており、初っ端から(見えないとはいえ)動物の死体で少女誌的には結構なインパクトだったと思われる。

またどちらにも背景に動物の慰霊碑が描かれていて、多数の動物の死を暗示している。

連載初回は数回で終わるかしばらく続けられるかの命運がかかっており、気合を入れて似たようなインパクト勝負をしているのが面白い。

そう言えばもう一つ怖い話が双方に。

一方は「はなみずチョーダイ」で始まる、ハムテルの飼い鶏ヒヨちゃんがインフルエンザにかかる話。ハムテルは自室で懸命に彼を看病し、ヒヨちゃんは無事回復するが、現代だと結構微妙な雰囲気である。
もう一方はUFO研究会が自治寮で鶏と豚とインフルエンザにかかる話。余りにもタイムリーすぎる怖さに笑えなかった。(いくら女に縁がないからって豚で癒してはいけない)
インフルエンザは死ぬ病気と言われていますが、最近罹患した者から言わせてもらえば「いっそ死んだ方がマシな病気」です。

まあ類似点はそんなところで、相違点の方が多い(に決まっている)。
沢木には菌が肉眼で見え手で菌を捉えあまつさえ意のままに操るという超能力があるが、微生物学の同定実習で苦労していたハムテルにはない。(一度で試験に通る力を羨ましがられていたが、それは超能力ではない。菱沼さんは金になる大腸菌を二度も発見したが、それも超能力ではない)
H大の授業・実習風景は頻繁に出るが、農大の授業風景はさほど
出てこない。(校外実習はあり。どちらにも牛の直検が)

蛇足
夏休みに、菱沼さんと武藤さんが「水着に白衣」で学校にいる。
武藤さんの場合露出度も高く青年誌的サービスとも考えられるが、菱沼さんはまさか「花ゆめ」男子読者へのご褒美ではないだろう。とすると理系学部女子の「水着に白衣@夏休み」はデフォ……?

さて次に、もやしもんと後者を比較すると、これまた人物設定に共通点が。
(「もやしもん」が「風の谷のナウシカ」を下敷きに描かれたと以下略)

樹教授=ヴ王または土鬼皇帝(菌で世界を変えようと)
長谷川=クシャナ(お嬢だけど剣呑)
美里=クロトワ(無精髭)
川浜=兄王子(デブ)
沢木=ナウシカ1(菌と心が通じる)
結城=ナウシカ2(酒界を探求する)
及川=ナウシカ3(髪型だけ)
武藤=ユパ様(長旅をしてきた)

というのは冗談で。

粘菌を見ている美里・川浜・及川が「ナウシカ」コスプレをしているが、どう見ても似ていない。衣装は克明に描かれているものの、そもそも絵柄が宮崎駿のそれと全く趣を異にするのでうっかりすると気づかない。(デフォルメされた画はそうでもないのに、シリアスな画は劇画調。長谷川に限らず女性は美人の設定だが、見た目かなり怖い)

にもかかわらず宮崎の画風を思わせるものは、例えば煙、雲、(沢木に見える)菌の渦など、たちこめる気体状の物質。「この人はもしや瘴気と粘菌を描きたかったのじゃないだろうか」と思うほど「ナウシカ」を彷彿とさせる。丹念に引かれた線は本家以上の緻密さであるが。

ものものしい防護服の防疫班が出動、消毒して回っているシーンや及川が除菌スプレーを撒いているシーンの煙った感じが似ており、また、醗酵が限界に達し爆発、武藤の身体を覆った怪しげな醗酵食品など、まさに粘菌そのもの。(あれ?見えない?)

樹教授がセーラー服のいたいけな長谷川をこの道に誘った時の小道具も迷路付きシャーレに入った粘菌であった。(ここはキャラメル箱に入れて欲しいところだが、見えないので)

四巻を費やしても未だ菌の森のほんの入口という感じなので、おそらくこれから壮大な話が繰り広げられることと思う。(「ナウシカ」も完結までに十年を超えた事だし)作者ご本人のブログによると終わりは決めてあるらしいが、たとえ行き先が決まっていても旅はいくらでも長く続けられる。菌をめぐる長い旅に連れて行ってもらうことを期待。

超能力を持ちながら影の薄い主人公沢木も、菌と人との絆を結ぶためにきっと大(中くらいか?)活躍することでしょう。何と言っても、菌の名前と姿を世に広めた功績が第一級。(一般人のムダ知識「通勤にブドウレンコン」に絵がついて、さらにムダさ加減グレードアップってか)

全体を考えると、まず酒ありきな感がしますが。酒の奥深い世界→醸造と菌と醗酵→いっそ大学が舞台だったりして……。

ま、そのへんの大人の事情はともかく、面白ければ。
「動物のお医者さん」は、無闇に動物を描きたがる作者が獣医の話なら無理がないからと提案されてのあの話だし、「風の谷のナウシカ」は、「オデュッセイア」と「堤中納言物語」の異色少女キャラ萌え&妄想の結果のSF巨編ですし。

ええとつまり、面白い漫画に出会うと人生得した気分になります。

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コメント

アニメ化ってマジですか?
ドラマ化が良かったなあ……。

投稿: 604 | 2007年5月11日 (金) 19時46分

お邪魔します!トラバありがとうございます、ライチです!
動物のお医者さんは誰もが連想するでしょうが、ナウシカとは!
余りに深い考察に、ちょっと自分の記事をこう、消し去りたくなりましたw
もやしもんにナウシカが3人もいるのには吹きましたがwww
ナウシカの原作は未読なので、これはいつかチャレンジしないとですね。
ヒヨちゃんのインフルエンザ、当時は「鳥もインフルエンザにかかるんだ」
とびっくりしただけでしたが。
あらあら。怖い怖い。
またお邪魔しますvうふふふvvv

投稿: ライチマン1号 | 2007年5月31日 (木) 11時56分

うや、ライチさんようこそいらっしゃいませ!
コメントありがとうございます。
考察という程の物ではありません……。
長文がどうにも苦手で、1ヶ月近く書いては消し、書いては消し、
最後には訳が分からなくなってました。
長文が書ける方は本当に憧れです。
ライチさんの記事がなければ「もやしもん」を読もうとは思わなかったので、
本当に本当に、感謝しております。

またいつなりとお越し下さい!

投稿: 604 | 2007年5月31日 (木) 12時25分

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