« RRWP Dec.-Jan. | トップページ | 寒い »

China Night

昭和初期という点で思い切りツボだった「ラスト、コーション」。しかも舞台は前半が香港・後半が上海、どちらも東洋の魔都と称されたエキゾチックな国際都市。そして登場人物たちのエレガントな衣裳がたまりません。

つい連想する、かの名作「上海バンスキング」とほぼ同時代。確か「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」にもこの頃の怪しげなアジアの都市として上海が出てきていたかと。(←作品が偏っているのは例によって例の如くなので気にしない)
しかし登場人物が中国人ですので、外国人が浮かれ踊っている華やかな劇場的部分よりも、その舞台裏である中国の実情がより克明に描かれています(あ、実情というなら發仔の「上海灘」も見ておくべきか……。ちょっと方向性違う?)。

印象深かったのは始まってすぐの麻雀シーン。

アンニュイな感じの奥様方が卓を囲み、お喋りしながら牌を切っています。象牙色(もしかしたら本物の象牙か)の牌を軽やかにかつ優雅に挟む指先は手入れが行き届いており、いずれも特権階級の夫人と分かります。絶え間なく交わされる会話は他愛ないようでいて、しかし油断ならない肚の探り合い。心の奥を見透かそうとする視線が絶えず三方から投げかけられ、気の休まる暇もなさそうな。ちらりと流し気味に切れ長の目が動く様子は京劇の女形の如く艶めかしいものの、心中は麻雀の手と会話の裏とを二つながらに計算、華麗にして何とも息詰まる光景です。

実はここが一番怖かった。
賭け麻雀だからそれなりに真剣に打たなくてはならないし、お喋りの方も弱みを握られないよう注意を払わなくてはならない。特に主人公は暗殺の命を帯びたスパイなわけですから、一時の気の緩みも許されず。見ているこっちの神経が擦り減りそうでした(なんかこの前見た「無間道」に近い感じ)。

怖いと言えば、湯唯(タン・ウェイ)演じるこの主人公は「女スパイ」と紹介されていますが、別に秘密機関でバリバリ訓練を受けたわけでも何でもなく、もとは只の女子学生だったということ。戦争の色が濃くなった本土を離れ香港の大学で勉強する主人公は、演劇部の友人に誘われてたまたま愛国抗日劇に出演することになり、それが成功した高揚感のまま、演劇部ぐるみ「日本の犬、易(=トニーさん)を懲らしめようぜ」という流れになっていくのです。中心になったのは王力宏(ワン・リーホン)演じる愛国青年なのですが、軽い芝居ノリでドロドロした大人の世界に踏み込んでしまうインテリ(当時の大学生だからインテリでしょう)の甘さと危うさを感じさせます。主人公はそんな彼のまっすぐなキラキラした眼に惹かれていたりするのですが。
Kwan_2
ここで全く個人的かつどうでもいい感想、愛国劇で舞台化粧をした王力宏(ワン・リーホン)君、何か昔日の關徳興(クワン・ダッヒン)様に見えたよ……(←レトロ男前で大物っぽいという意味に取って頂ければ)。

とある筋からの情報を得、貿易商に化けて、香港に来ていた易(イー)夫妻とつながりを作ることに成功した主人公たち。愛国劇の前には「演劇なんて分からなくて」と言っており、おそらく最も芝居経験の浅い主人公ですが、地味な女子学生から華やかな貿易商夫人に変身するさまは、驚くべき舞台度胸と演技の才能としか言いようがなく、ああこの娘は天性の女優だったのかと納得。

易夫人とショッピングなどをするまでに至った主人公、ある日易先生のスーツを見立てに二人でテーラーへ。そこで新しいチャイナドレスを試着した主人公を「それを着たままで」と食事に誘う易先生。あのオサレな雰囲気は淺水灣(レパルス・ベイ)のレパルスベイホテルあたりでしょうか、もう見え見えなまでに「落としモード」に入っている易先生。喜んで落とされたい状況ですが、主人公も負けじと誘惑モード、会話と視線の熱い駆け引き。

かなり接近しながら何もなかったこの夜、しかし次はきっと「彼の愛人になる」と確信した主人公。易先生を暗殺するためにはやむを得ず、決行あるのみと全員の意見は一致したものの、何故か目を逸らしこそこそ逃げる男子。……みんなキヨラカだったのかよ。唯一経験者の男子(残念ながらリーホン君ではない)を相手に昼夜特訓する主人公は鬼気迫る感じで、何が彼女をそこまでさせるのかが不思議で怖い。

が、捨て身の準備を整えたにもかかわらず、易夫妻は突然香港を離れ、学生たちは別方面で殺人に手を染め、学生気分の「香港アマチュア編」はあっけない幕切れ。

三年後、上海で貧乏学生として暮らす主人公の前に、元愛国学生で今は抗日組織に取り込まれたリーホン君が現れて「上海プロフェッショナル編」の始まり。地味で生気のなかった彼女が、再びの任務を帯びて貿易商夫人に化したとたん精彩を放ち、まるでそれが本来の彼女であるかのようです。

そしてさすが易先生(何がさすがだ)、再会するやすぐに彼女を空き家に連れ込み、レイプまがいに征服。そうしておきながら彼女を自分の家に滞在させる大胆不敵。どうやら不倫にも年季が入っているご様子です。
数年越しで手に入れた運命の女との行為に、このあと彼は耽溺していくわけですが。猜疑という地獄の中に生きる彼が、同じ地獄にいる彼女と心を通わせる過程を描くのに、あの熱演。

まあ正直ゼムクリップはどうよと思いましたが、奇妙な体位には易先生の病んだ心が表れているような気が(でもアメージングな体位は少なかったですよ。四十八手の無理矢理なやつの方がすごい)。それより無粋なぼかしのおかげで必要以上に猥褻に見えたのではないかと。さらっと出しちゃっても良かったんでは(余計な騒ぎになるか)。
別段トニー迷というわけではないので尻丸出しもさほどショックではありませんでしたが、ただ、もうずいぶん体当たりな役ばかり続くなあと、そこが複雑で(楽な役には興味がないのか、損な性分)。

敵同士、騙し合う仲の二人ではあれど、非情な組織に使われている点や絶えず命の危険にさらされている境遇にあることは共通しており、性行為は二人だけの同志愛的な連帯感につながっているようにも感じられます。ただしこの異常な状況は確実に主人公の精神を追い詰めていて、もっと情報を集めろと言う上司に、いつ相手が射殺されるかと考えながら行為し続けているのだと胸中吐露する彼女の様子には、リーホン君ならずとも目を覆いたくなります。やはり出口の見えない隧道に人は耐えられないのでしょう。
二人の魂が確かに触れ合ったところで終わりが来てしまうのは悲しいですが、明日なき身の主人公としては愛と安息を得てある意味幸福なのかも知れません。

芸術作品とまでは思わないけれど、それなりに見ごたえのある映画で、特にレトロ香港や美しい旗袍が堪能できて個人的には満足でした。しかしながら作品紹介や予告編とはかなり違う印象を受けたので、(体位以外に)ご興味があれば是非とも劇場で現物を。

……え、「衝撃のラスト」?どれだろう。

 1.ピンクパンサーのデカさ
 2.トニーさんの逃げ足
 3.見終わったら2時間半以上経ってた

|

« RRWP Dec.-Jan. | トップページ | 寒い »

香港・中国映画関連」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/234622/10319869

この記事へのトラックバック一覧です: China Night:

« RRWP Dec.-Jan. | トップページ | 寒い »