「タンタン」と言いなさい!
このラフスケッチ集をネームと考えると、タンタンの創作過程が見えて興味深いです。題材と導入部分は決まっているものの、展開と結末は未定だったようで、設定に迷っている様子が。とすると、エルジェ氏はまず話全体を作ってから描くタイプではないのか……。
長編漫画の描き方として、まず大まかなストーリーを作り、それをベースにシナリオを作り、コマ割りセリフ割りをしたラフ画(=ネーム)作成、下書き……という流れだというのを読んだことがあります(←青池保子先生の本で)。しかし過日「少女マンガパワー!」展で拝見した里中真智子先生のチラシの裏ネームは、コマ割りセリフ割りはしてあれど絵が一つもなかった。絵は後で考えるのか、それとも頭の中に入っているから描かなかったのか、その辺は判りませんが。
まあ創作過程は人それぞれでしょうし、エルジェ氏も(たとえ一通り考えてから描く派だったとしても)とりあえず思いついたところまでラフ画を描いてみたのかも知れない。
それにしても贋作芸術と新興宗教とは、なかなかに現代的かつ生臭いネタです。これを題材に選んだ晩年のエルジェ氏の、衰えなき意欲や風刺精神が感じられるような気がします。もしも完成していたら、これもまたエネルギッシュかつスタイリッシュな冒険活劇になっていたんでしょうか。
ちなみにシリーズ最高傑作は、日中戦争直前の上海を舞台にした「青い蓮」だと言われています。中国人の知己を得たことから、エルジェ氏が様々な資料をもとに徹底的にリアリティを追求、作者の政治的観点が色濃く出ていること、また結果的に歴史の行方を見通した作品となっていることが最高傑作と称される所以(「タンタンの冒険 その夢と現実」参照)。
年代としては、「ラスト、コーション」や「上海バンスキング」と同じく昭和初期の上海、それぞれ異なる角度から見比べてみるのもまた一興かと。これよりも少し前になるけれど、横光利一の「上海」も結構面白く、天国と地獄が隣り合わせた奇怪な先端都市を這いずっている気分になれます。
前作に当たる「ファラオの葉巻」で麻薬組織と対決したタンタンが上海へ渡り、蔓延する(というか中国を食い物にする西欧諸国によって蔓延させられた)阿片と戦う中国人組織と力を合わせ、暗躍する黒幕(←ミツヒラトなる日本人。他に麻薬密輸団のラスタポプロスなど)を暴くというストーリー。中国での支配力を強めようとする日本軍の秘密工作なども絡められ、もう子供向け漫画というよりスパイ映画といった趣です。
激動する世界を股にかけ……ってえと、「エロイカより愛をこめて」(ええ、少女マンガ脳だから。間違っても「007」とか「ゴルゴ13」ではない)あたりが思い浮かんだり。恥ずかしくも情けない日本人しか出てこないところなんかも似ている。くそう、「007」における丹波哲郎みたいな役がないものだろうか。ないな。あと、かなりスケールダウンしますが、裕次郎や旭主演の日活映画の海外ロケ物にもそんな感じのがあったような。
実は「インディ・ジョーンズ」がタンタンを元に作られた、というのはWikiでもって初めて知った。そうだったのか。でもインディはオジサンじゃん……って言うか、新作ではもはやオジイチャンじゃん?
で、やっぱり少年主人公の方がいいと思ったのかどうか、別に「タンタンの冒険」も作るそうで。ただし実写ではなく3DCGらしいです。いやかつて実写もあって、すごーく頑張ったって感じなんだけどね。すでにタンタン役にイギリス人の俳優が決まっていて、早くも注目を浴びインタビューされたりなんかしているのですが。
……こらあ!「ティンティン」って言うなーーー!!!
観るときは吹替版にするか……。
さて撮る前から3部作と決まっている、その3つの話とは。
やはりシリーズ最高傑作を含む「ファラオの葉巻」・「青い蓮」・「タンタンチベットへ」じゃないでしょうか。
いや何となく。
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