秀逸な実写化「グーグーだって猫である」
(実は原作未読なんですが
)
いつも行っている映画館のポイントがたまって無料鑑賞券になったので、この「グーグー」と「幸せの1ページ」と「(松重さんが出ているらしい)TOKYO!」と「デトロイト・メタル・シティ」と「仮面ラ(ry」と、どれを観ようか迷ったのですが、一番穏便そうな「グーグー」にしてみました。
平日でもあるし、観客に年配のご婦人やご夫婦が多かったのは、珍しく穏やかそうな役の小泉今日子が子猫に顔を寄せているほのぼのとした画
に惹かれたからではないでしょうか。
実は私もそのクチで、「原作:大島弓子」という部分を「そうそう、猫好きだもんね~」くらいに流して考えていました。
しかし。
本編は予想以上に(いや実はあまり予想もしていなかった)とろりと濃い、
大島弓子の漫画の世界
だったです。
3日続きの修羅場というのが冒頭の場面で、へれへれで作業を続ける小島麻子先生(キョンキョン)・チーフアシスタントのナオミ(上野樹里)・アシスタント(森三中)。突っ伏した顔を上げるとトーン屑が貼りついているなど、ベタながら生々しい。
最後の追い込みの様子をソファの上で大人しく見ていた猫が、一瞬人間の姿(ちゃんと毛色に合った服)になって「さよなら」と言います。
ああ、漫画の雰囲気がそのまま実写に![]()
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で、15年一緒に暮らした猫「サバ」を失い、腑抜けになって漫画が描けなくなってしまう……という流れなのですが、不思議なことに色々な人のモノローグが重なります
。
撮りためた写真を飾りながら「サバは……が好きだった」と語る麻子先生。
「先生は……」と先生の様子を語るチーフアシのナオミちゃん。
そして舞台である吉祥寺を英語で語る外国人のポールさん(←時々「英語でしゃべらナイト」に出てる巻きロン毛の人。ここだけ見ると外国人旅行者誘致のプロモーションビデオみたいです)。
しかしそれが違和感やブツ切れ感を抱かせることはなく、すんなり「ああ、みんな吉祥寺で生活しているのね」と思わせるのでした。
ペットショップの店頭に日参する先生(をアシスタントたちが見守ったりもしている
)、ある日とうとう店内に入ってグーグーと出会い、家に連れ帰ります。突然明るくなる生活。前の猫の分まで愛されて成長する猫。
去勢手術をするという朝、雌猫に誘われ外に行ってしまったグーグーを探し回る先生、井の頭公園で突然樹上から猫を手渡されます(こういうところがマンガっぽい)。
木に登ったはいいが降りられなくなったグーグー、それをわざわざ木に登って保護した青自さんなる青年も不思議な感じの人で、その後何となく一緒にいる時間が増える二人(まあその裏には、二人をくっつけようというナオミちゃんらの努力があったりする)。
やがて再び漫画の構想を得て、連載に向け始動する先生たち。その一環としてまずは高齢者体験、「見えにくい」「聞こえにくい」「体が3倍重い」状態で街を徘徊します。
老いるということをしみじみ実感しながら歩いていくと、
ラブホテル
(街並みの中にちらっと映りこんでいたのにはちゃんと意味があったのだ)からナオミちゃんの彼氏が女子高生と出てくるのに鉢合わせ。逃げる二人を、体が3倍重くなっているとは思えぬ勢いで追いかけるナオミちゃん一同![]()
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。
このあたりもマンガ的表現だと思うのですが、それを踏まえていないと突然のシュールなコメディタッチに驚く方もいるのではないかと少々心配になったり(だってビルのてっぺんに追い詰めてからみんなで飛び降りる
んだもん)。
とうとう追いついて修羅場になりかけたとき、麻子先生が腹痛を訴え救急車で病院に。診察室にいたのは青自さんで、ここではじめて彼が医者だったことが判明(脱いだ服を慌てて着ようとする先生が可愛い)。こういうところもどことなく漫画っぽいです。
検査結果は卵巣癌、転移した子宮も摘出しなくてはならないとの告知。猫の避妊手術を前に切ない顔をしていた先生の過去のシーンと呼応して、胸がどきんとし、また「20世紀の会」(←アレ?21世紀だっけ?「20世紀少年」と混ざった?)のシーンも思い出して、心がちくりと痛むのです。
「20世紀の会」というのは、天才漫画家麻子先生の血を絶やしてはならぬ、何とかその遺伝子を次代に残すのだ
という勝手連(しかし今やナオミちゃん一人)なのですが、こういう生々しいことをごく無邪気にストレートに話す女の子が大島作品には多く、そのあたりもうまく織り込んでいるなあと思いました。
例えば、余りの生理痛の酷さにいっそのこと避妊手術をしてしまおうと考える少女の話(「赤すいか黄すいか」)など、字で書くとおいおい
!なんだけど、結構うなずけたりするストーリーなんですよね。
オチはつくともなくつくので最後まで書きませんが、個人的に一番盛り上がった
のは、入院中の麻子先生が真夜中にふらふらと病院を抜け出すシーン。公園を抜けてカフェに行くとポールさんがいて、自分は死神だと言い、逢わせたい人がいると教えます。奥に座っているのは白い服の少女で、先生はすぐにサバだと気が付くのですが。
あああ、サバ(人間体)は大後寿々花ちゃんだったのか!!
ここまで全然分からなかった……
。
「わたしはいつの間にかあなたより年を取った。あなたは気づかなかったけど」と、少女の姿をした老猫として話す姿がやたら板についていました。
実は彼女自身猫みたいに成長が早くてびっくりしていた(「セクロボ」の記憶のまま「シバトラ」を見たら5歳くらい大きくなってた
)ところだったので、なんだかすごく説得力のあるサバだと思ったのです。
サバと別れてからの、先生の後悔や辛さが癒されていく、好きなシーンです。
これはもちろん夢なのですが、巧みに現実を装った(あるいはふんだんに現実が散りばめられた)夢も大島作品によく見られるもので、らしい展開になっています。監督の犬童一心という人がもうどっぷり大島作品のファンらしく(調べたら、前述「赤すいか黄すいか」を映画化していた)、全編のツボの押さえ方が筋金入りという感じ。
それだけに、微妙に「一般向け」としては分かりにくい部分もあるかも知れません。映画系サイトなどで、(゚Д゚)ハァ?な試写会レビューがいくつか見受けられましたけれども、原作もしくは大島作品に触れたことのない人が観るとそう感じるのも仕方がないかと思いました。
というわけで、
猫が好き
キャストの誰かが好き
吉祥寺または中央線沿線文化が好き(楳図かずお含む)
監督が好き
原作及び原作者が好き
のうち、1~3のどれかひとつにしか当てはまらないと、物足りないかも知れない。ふたつ以上ならそこそこ楽しめ、4か5に当てはまっていれば満足がいくのではないでしょうか。
私は原作も読んでいないし大島さんの熱心なファンでもありませんが(家探ししたら「綿の国星」と「大きな耳と長いしっぽ」しかなかった
)、たまたま多感な頃に触れてその雰囲気が好きだったこともあり、原作の世界を大事に映画にしたこの作品は、近来まれに見る秀逸な実写化だと思いました。
しかし……大島さん(含め24年組の方々は)還暦なのですよね……。過ぎた年月を感じます![]()
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